HAIIRO DE ROSSI/FORTE(ハイイロデロッシ/フォルテ) by MUЯ
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くぐもった音と澄みきった音が、ひんやりと乾いた夜風のように響きあう。 やがて群青の深海に潜っていた。そんな音の粒に包まれて、最後は地底洞窟の湖面へと抜けていく。首をあげると碧く発光する石の壁。 不穏だが同時にあまりにも心地よい1曲目"Stained Glass"から、このアルバムは幕を開ける。
HAIIRO DE ROSSI/FORTE

そこからアッパーなビートに跳ねて、ステージの光と影が交錯するような2曲目"Ultimate Arts"へ。 心に浮力が生まれて、踏み込む一歩の踏力が増すようなパワーをもった名曲。
そしてトリッキーな"Learn Dirty Japanese"がはじまる。聴き込むほどに味わいが深まる音。耳の奥にこびりついて離れない奇妙な旋律に、変則的なラップが絶妙に絡みあって鼓膜をゆらす。
そしてここからアルバムの緊張感は一気に昇華されていく。 0時過ぎのアスファルトの香りが鼻を突く、"Good Bye Kidz Hiphop"。 鬼気迫るHAIIROの言葉が散弾のごとく吐き出されてくる。醒めた眼としなやかで強靱な意志が反映されたリリックは、2011年のレベルミュージックとしてトップクラスの衝撃を放っている。
そこから間髪を入れずに流れ出す音は、あまりにも美しい"Drug Ballad(This Is You)"。 強さ、儚さ、優しさ、脆さ…、様々な感情が万華鏡のように閃いては染み入っていく。 Graceの伸びやかなコーラスは女神を思わせるし、HAIIROのラップは1つ1つの声音や間、強弱、呼吸までもが情感に溢れていて天賦の才能が惜しみなく発揮されている。言葉のひとつひとつに耳を傾けたとき、その真摯さはきっと聴く者の琴線を捉えるはずだ。 その曲が静かに消え入った後に、みずみずしく優しいメロディがはじまる。 アルバムタイトルであり、彼自身が主宰するレーベル名でもある言葉を冠する6曲目"Forte"。 切なくも凛としたリリックは、ずぶどろを引きずりつつも前を向くような清々しさがある。 伸びやかで美しい弦楽器の旋律が印象的なトラックの上で、HAIIROは高らかに想いを吐く。細かな音の抜き差しも心地よく、空に解き放たれるように鳴り止んでいく名曲。

続く"Shout8.27"は彼と交流のあるMCからのシャウトアウト/フリースタイル。煙に充ちた楽屋のような雰囲気と、古い盤からループするようなピアノの音色。 6曲目までの流れで上がりきったテンションを適度にクールダウンしてくれる妙味がここで効く。
8曲目の"Wake Up"はどこか遊び心を感じる1曲。 タイトに攻めきった前半の流れから、引き出しの多様さと深さを感じさせる後半へと口火を切るようなトリック。 この曲は後半がまた驚き。例えるなら押井守氏の作品みたいな、世界標準のジャパニメーションの如き文化の匂いが漂っている。
強烈な2MCを迎えてのマイクリレーが炸裂するのが、次の曲"Training Day"。これまでのHAIIROの作品を聴いてきた人ならさらに楽しくなれる電話口のイントロから、まずは宙チート、そしてHAIIRO、そしてTAKUMA THE GREATとそれぞれの持ち味がうなりを上げて鳴っている。細かなトラックの鳴りが楽しいのでヘッドフォンで聴くのがおすすめ。その反面、この勢いはぜひライブでも聴きたい1曲。
牧歌的なイントロからブラックジョークのような、風刺的な10曲目はその名も"donadona"。 リリックの簡潔で軽妙な切れ味は彼の表現における新境地のように感じるし、トラックのストーリー感はそこに見事にはまっていて、独特な印象が残る。
次は肩の力を抜いて浸れる"冬Jazz"。つかの間のリラグゼーションに。

次の曲"Freestyle Boogie"はリリックの愉しさが溢れている。様々な才能あるビートメーカーが参加しているこのアルバムで、この曲はHAIIROのバックDJでもある%Cの作品のひとつ。音使いの面白さにも耳をそばだててみてほしい。
そしてTAKUMA THE GREAT、HAIIRO DE ROSSI、BAN、そして万寿と四者四様のスキルとスタイルが火花を散らすキラーチューン"S.K.I.L.L.Z"。人が持つ声の魅力や発声、しゃべり方の面白みが堪能できるし、それぞれのMCの持ち味が息をつく間もなく迫ってくる緊張感もすばらしい。
静謐で美しい音色に重ねて、在りのままのメッセージをしっかりと問いかけ語りかけるように次の曲がはじまる。14曲目のタイトルは"夕陽が落ちて行く前に"。本質的に大切なことを、社会の不条理の向こうに見据え続ける彼の視点が鋭くも優しい。
そこに続くのはタイトルどおりに甘い"Honey"。明るい日射しに充たされた心地よい一日を思わせる曲。 そこに連なる"Baby Baby"も人生賛歌のようで、扱うテーマは死や別れだったりするけれど、全体を通して暖かい雰囲気の漂う曲。人への愛を感じる2曲を経て、このアルバムはついに終盤を迎える。
意識が冴えわたるような音が差し込み、"Blue Bird Classic"がはじまる。 世界を捉える焦点、切りぬく視点、言葉や景色への感性、生き方やアートへの姿勢が、どれもクールで小気味よい。それをこのレコーディングの瞬間に、渾身のパフォーマンスで散りばめた響きがあるからぞくぞくする。この先ずっと残る音源だけど、この瞬間の彼からしか生まれ得ない空気をまとっている。 最後はこのアルバムの熱を昇華するかのように、Pigeondustによるインスト曲"OUTRO"が鳴る。そして鳴り止んでいく。
HAIIRO DE ROSSIの3rdアルバム"FORTE"、BALL TONGUEでも枚数限定で発売中!

さてっ、この木場のバスケカフェブログ、はて何位??
By MUЯ
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